三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

「ゼラルダと人喰い鬼」

 グリム童話パスティーシュ。舞台は中世ヨーロッパのどっかの町で、人喰い鬼がこどもをさらって食っている。でも、領民がこどもを地下室その他に隠してしまったので食えなくなった。キャベツやジャガイモを齧っても飢えが満たされない。

 人喰い鬼のことなど知られてない、郊外の開拓地から、家畜や野菜を荷車に乗せ、町に売りに来た小娘ゼラルダ。鬼はゼラルダを襲おうとするが、空腹で足がもつれて崖から転落。ゼラルダは、昏倒した彼を介抱し、荷車の売り物を惜しみなく使った、得意の料理をたっぷり食わせてやる。その旨さに魂を奪われた鬼は、人喰いをやめる。そして、成長したゼラルダと結婚して幸せな家庭を築く、というお話。登場する料理が、とにもかくにも旨そう。

 この人喰い鬼は「貴族」の寓意だろう。だって、自分の領地のこどもが鬼に食われる、なんて事態が生じたら、鬼退治こそが領主=貴族の最優先責務。典型的なノブレス・オブリージュ。その領主が不在ということは、当の鬼自身が領主ってことじゃんよ。

 めでたしめでたしに見えるラストだが、こどもの一人はゼラルダに抱かれた赤ん坊を眺めながら、背中にナイフとフォークを隠してる。食う気まんまん! 人喰いの血筋は子々孫々受け継がれていくわけだ。つか、人喰いこそが貴族のライト・スタッフなんだろう。親兄弟でも食い殺し合って「最強」がトップに立つ。そんくらいじゃなきゃ、隣の領地の貴族に攻め滅ぼされて食われちゃう。

 貴族は人喰いだが、領民であるゼラルダも、ベジタリアンでも何でもなく、豚や鶏など家畜を屠殺して丸焼きにして食っている。領民を直接、生で食うより、領民が心血注いで育て上げた家畜を、ちゃんとお料理して食う方が、ずっと美味しいですよ、と貴族を啓蒙したのがゼラルダの功績。でも、飢饉やら戦争やらで、家畜の肉が入手できなくなったら、領民を食うわけでしょう。野菜? それだけじゃ栄養足りませんから、と。

 いやいや、素晴らしく教育的な絵本だった。孫が生まれたらプレゼントしてやろう。