三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

スペインのバルとビールとドイツ人

 スペインには「バル」という飲み屋があり、ビールやワインを「タパス」というおつまみと一緒にいただくことができる。朝から晩まで開いていて、珈琲やコーラなどノンアルコールもあるから、珈琲とクロワッサンなどで「朝食」も可能だ。一人で気軽に入って簡便に飲み食いができる。どんな小さな町にも必ずある。この「バル」の存在がスペイン旅行の大きな魅力の一つである。特に一人旅においては。

 お値段はさまざま。バルセロナマドリッドや、それにサン・セバスチャンといった都会のおしゃれ店だと高い。飲み物とタパス合わせて10ユーロとか。アンダルシアは安い。飲み物が2ユーロでそれに一品タパスがついてくる、なんて店もある。300円で一杯やれるわけだ。

 どこのバルだったか忘れたが、そこそこ大きな町だったように記憶する。夏の観光シーズンだった。自分が入ったら、先客が一組。30代くらいの白人男性が5、6人いた。ドイツ人の団体さんだった。全員が1本ずつビールの小瓶を持ってラッパ飲みしていた。自分はカウンターに陣取って、いつものように「ウナ カーニャ ポルファボール」とオーダーした。カウンターの中の店員が小ぶりのグラスを取って、生ビールの蛇口から、ぷしゅーと注いでくれる。

 「グラシアス」と受け取って、さて、タパスは何を食おうかな、クロケッタ(コロッケ)かな、トルティージャ(スペインオムレツ)かな、他に何か旨そうなもんがあるかな、と物色を始めたところ、ドイツ人連中が何か、ざわ、ざわ、と小声で話し合っているのに気がついた。まんがの「カイジ」みたい(笑) で、こっちを見てるんだよな。何だろう、俺何か変なことしたっけ? と、ちと不安になったところ、ドイツ人の一人が「意を決した」感じでこっちにやってきた。

「オラ!」「オラ!」とスペイン語で挨拶を交わした後、彼は英語で「それは何という飲み物だ?」と訊いてきた。何って見りゃ分かるじゃんよ。「セルベッサ(ビール)だよ」と答えると、「俺たちがセルベッサを頼んだら、これが出てきた。お前のと違う」と、持っているビールの小瓶を示す。

 ああそうか、と事態が了解できた。バルで生ビールを頼む時は「カーニャ」とオーダーするのだ。「カーニャ」というのはスペイン語で「茎」という意味で、細長いグラスを意味するのだが、転じて「生ビールを注ぐグラス」一般を意味する。小さめのグラスが多く、でかいグラス(日本で言うジョッキ)は「ハッラ」と言うこともあるが、たいがいは「カーニャ」で通じる。大小がある場合は「大か小か?」と訊いてくるから、好きなほうを頼めばいい。「セルベッサ」というオーダーで、生じゃなくて、あえて瓶ビールの方をオーダーしたと店員は解釈したのだろう。「カーニャかい?」と聞き返されて意味が分からず、「セルべッサ」と繰り返した結果だったかもしれない。

 以上を簡単に説明してやったら、「そうだったのか!」と納得。全員が「カーニャ!」とオーダーして、新たに生ビールを飲み始めた。生ビールを飲むドイツ人たちは、心底幸せそうだった。

 ちなみに夏のスペインはドイツ人観光客が多い。このバルにいた連中みたいに、野郎ばっかで旅行してたりもする。ドイツ人はすぐに分かる。まず、背がめちゃ高い。男なら180cmから2mくらい。多くは英語がペラペラで、アメリカ人みたいな話し方をする。この話し方でイギリス人と区別が付く。で、アメリカ人の場合は同じグループ内に白人黒人ヒスパニックやアジア系と人種が多様なのに対して、ドイツ人は白人100パー。

 夏のアンダルシアで昼日中、外を歩いたり、自転車で走ってたりするのは、たいがいドイツ人か日本人か韓国人の観光客だ。それ以外は炎天を避けて屋内に引っ込んでいて、外出は日が傾いてから。自分もそうしてた。昼にバルで2、3杯飲んで、ホテル戻って数時間昼寝。それが最高に気持ちいいわけさね。