三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

宝くじの思い出

 もう40年も昔の話だ。自分の学生時代、近所のアパートに法学部の友人が住んでいた。関西の田舎の出身だった。彼は、宝くじに魅せられていた。当時の宝くじは1枚100円で、1等賞金は1000万円。10枚買えば必ず末等の100円が当たるから、実質900円。それを毎回買い続けていた。

 そいつがある時「一口乗らないか?」と話を持ちかけてきた。もちろん、宝くじの話だ。たまたま割の良いバイトにありついて、結構な重労働だったが、10万円ほど稼ぐことができた。それを宝くじに「投資」することにしたのだが、1万か2万、おまえも相乗りで出資してみないか、というのだ。

 今まで宝くじを買い続けて当たらなかったのは、投資金額が1回1000円と少なすぎたからだ。それを100倍の10万円にすれば、当選確率も100倍になる。1等1000万円は無理かもしれないが、2等100万円なら十分可能性がある。投資額が多ければ多いほど可能性も高くなる。だから乗らないか? おまえからすれば1万円の投資で、10万円分の当選確率が買えるんだぞ、と。

 一瞬心が動いた、というのが正直なところだった。だが断った。当時の自分にとって、1万円は大金で、「よし乗った!」と出せるものでは無かったからだ。

「そうか。残念だな。でもまあ、100万円当選したら、1杯ぐらいはおごってやるよ」と友人は言った。良い奴だった、と思う。それは今も変わらない。

 友人は、何人かの知り合いに同様の話を持ちかけたが、出資する奴はいなかったようだ。要はどいつもこいつも貧乏学生だったからだ。

 友人は10万円を宝くじに「投資」したが、末等100円すなわち1万円しか戻ってこなかった。彼一人の損で済み、銭金がらみで友情を毀損せずに済んだのは、不幸中の幸いだっただろう。

 それでも友人は心くじけることがなかった。逆に喜んでいた。

「宝くじを買い続けていれば、いつか絶対に当たる。いつもは1000円だったのを、今回はその100回分を一気につぎ込んだんだ。ということは、俺が当たる順番が一気に100回分近づいたってことだろ?」と熱く語っていた。10万じゃ足りなかったのかもしれない。さらに確率を上げるため、次は20万で挑戦してみよう、とも。

 彼は今どうしているのだろう? 1000万、いや、その後当選金額が飛躍的に拡大した宝くじで5億10億をゲットして、積年の「投資」を回収できたのだろうか。