三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

垣谷美雨「老後の資金がありません」

 50代夫婦の妻・篤子が主人公で、老後資金を1200万貯めている。それが、娘の結婚式にン百万、舅の葬式とお墓にン百万、とガッツリ削られて、とどめに夫婦揃ってリストラ失業。逼迫する家計から、九十九里の超豪華老人ホームで一人暮らしの姑に月9万も仕送りしなきゃいけない。どうすんのよ?

 …てな感じで始まるお話。まさにタイトル通りで、読んでいて気持ちが暗くなる。篤子の2歳下の友人・サツキは夫とパン屋を営んでいて、ごくごく堅実に生活している。身内の葬式も極力簡素。篤子から見れば学ぶところが多いのだが、そのサツキの店も、ライバル店の開業で、売上激減と追い込まれている。自営業は大変だ。

 ここらへんから、話のテーマが少し変わり、老後資金云々以前に、生活を見直して無駄を省き、何でもできる仕事をやってきゃいいじゃない、という方向になる。出だしよりずっと経済観念その他が「健全化」している。

 で、夫の妹夫婦との口論の末、篤子は意地半分で、姑・芳子を豪華ホームから自宅に引き取ることになる。そこから話が劇的に展開する。ボリュームにして後半の三分の一。まさか、こういう話になるとは思わなかった。何この姑、「ウシジマくん」ワールドの住民ですか? イッキに盛り上がる。

 人間ちうものは、ピンチに直面すれば、いやおうなしに頭も使えば身体も動かして、何とか事態を打開しようとがんばる。そのプロセスで、やりがいやら生きがいが生まれるし、それが人生の質を高めることになる。死ぬまで安穏と暮らせるほどの潤沢な老後資金など、逆に人間から生きがいを奪い、人生を萎縮させる。

 そういうことなのだな、というのが自分の感想。