三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

「ファスト風土化する日本」

ジャスコ文明」「ファスト風土化」と著者がセンセーショナルに言挙げるのは、要するに日本全国が均一な都市郊外に変貌しているとのことだが、「東京」を象徴とした都市型消費文化が、一番リーズナブルな形で地方にまで普及しただけのこと。それを何より求めたのは、地方在住の消費者に他ならない。
郊外化による住民の「匿名化」「流動化」が犯罪の温床となると非難するが、十分なプライバシーを確保し、誰にも気兼ねすることなく、住みたいところに住むという、「東京」住民にとっては当然の自由が、ようやっと地方にまで波及したとも言える。戦前式の「家制度」を信奉する超保守派ならいざしらず、もしも著者が住基ネットや盗聴法に反対する心情の持ち主ならば、むしろ慶賀すべき事態だろうに(笑)
全国チェーンの量販店やファストフードを満載した巨大ショッピングモールが、地方都市近郊にどんどん作られ、鉄道駅を中心とした旧市街の商店街が滅びていく。その一点にだけ注目すれば荒廃の光景でしかないが、事態はさらに変化していく。
ユニクロ服やファストフードに飽き果て、伝統文化を見直そうとする人々が一定数存在すれば、彼らをターゲットとしたビジネスチャンスも生まれる。旧市街の再開発による町並み復元など、観光地としてのショーアップ、地方伝統の特産品の再評価、方言教育や伝統芸能の振興など、やれることはいくらでもあるだろう。
で、そのようなムーブメントが起きない地方は、そもそも回帰すべき伝統も文化も存在しなかったのだろうから、末永く郊外化したまんま、ファストフード食って「東京」もどきに暮らしていけばよろしい。伝統ある地名を「田舎臭い」と嫌悪して全国的に赤恥を晒した一方で「新東京タワー」を欲しがってる某地方都市のように。街づくりも都市建設も、そこに住む人間のレベルに従うしかない。「東京」の高みから地方の「ファスト風土化」を非難しても、地方の反発を買うだけ。
それが、著者とほぼ同世代で、著者同様に田舎にも都会にも住んできて、現在は「東京から一番近い地方都市」と呼ばれる赤羽の近郊に居住する自分の実感である。

ファスト風土化する日本―郊外化とその病理 (新書y)

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