三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

伊藤整「変容」

仕事関係で半日ほど独りで「店番のようなもの」をすることになり、それも相当レベルの暇が予想されたので、こんな時でなきゃ読まない本を読もう、と岩波文庫の棚から適当にチョイスした作品。同様のケースでこれまで「白鯨」「月と六ペンス」「ガリア戦記」などを読んでいる。…どれも傑作じゃん!
これはしかし、傑作を通り越して怪作だった。中年を過ぎて老境にさしかかり、ますます燃え上がる男女のエッチを描いた作品。
主人公の日本画家は60歳にならんとしている。その彼は、4年前に4歳年上の60歳の女性歌人を「攻略」する。互いに老練のキワミの心理戦を繰り返し、ついにエッチするに至る描写が、とことんリアル。かつ凄まじい。学生時代に一度だけエッチした「友人の姉の人妻」と40年近くの歳月を経て、再びエッチしてしまうくだりも、怖いくらいに生々しい。
昨今の小説のような直截的な表現は無い。伊藤整の描写はずっと奥ゆかしくかつ緻密で、脳内エロゲージがレッドゾーンを超えて振り切ってしまう。スゲーぜ伊藤整(笑)
川端康成ロリコン…とまでは言わんが、若い女好きだった。「伊豆の踊子」から始まって変態全開の「眠れる美女」や「山の音」まで。下世話に言えば「若い女にトチ狂う爺い」。これはまあ分からんでもない。
伊藤整はどうやら年上好みだ。その嗜好を還暦過ぎまで持ち越している。「爺いになってなお、自分より年上の女性に惹かれる」。文字通り想像を絶する世界。さらに心理描写の巧みさで「婆あ萌え」の感覚や情感を読者に共感させる。読了後、そこらへんを歩いてる婆あ年配のご婦人を見る感覚が「変容」して困ってしまった。いやホント。

変容 (岩波文庫)

変容 (岩波文庫)