三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

映画「山の音」

ツタヤディスカスのレンタルDVDで観る。1954年東宝成瀬巳喜男監督作品。
川端康成の原作は、何年か前に「本棚」に書いた通り、「死せる美女」に対するコンプレックスにとりつかれ、息子の嫁に心乱される老人の懊悩、てな変態ちっくな話だったが、映画では、原節子演じる嫁のほうが、山村聡の義父に魅かれている、と改変されている。ラストの新宿御苑で明かされる嫁の不倫感情を正当化するために、上原謙演じる夫は爬虫類じみた冷血漢に描かれる。嫁の事実上の不倫告白を、義父はやんわり拒絶し「(息子以外の男と)幸せになるんだよ」と袖にする。このシーンの原節子は、ちと怖い。顔が能面じみている。ちうか、素の表情を出さずに、能面を演じている。
ふと思ったのだが、不倫というのは、身体だろうか、精神だろうか? 古典的な疑問だな(笑) この映画においては、義父に対する嫁が精神的にはラブラブ全開で、かいがいしくお世話しまくっている。夫に対する愛は無い。せいぜい義父のムスコってだけ。イヤーン(馬鹿) で、昔の「家」ではそれが特に不自然でも何でも無かった。義父に惚れて嫁ぎ、息子の種で孫を生んで、てな「夫婦」もあっただろう。その不自然さを暴露して、「家」ではなく、個人対個人の恋愛に立脚した結婚を称揚しよう、てな意図の作品だったのかもしれない。
戦前の面影を残す鎌倉の日本家屋が、懐かしく、また美しい。今さらあんな家に住めるとは思わんが。夏は暑く、冬は死ぬほど寒そうだし。

山の音 [DVD]

山の音 [DVD]

「本棚」http://www.ss.iij4u.or.jp/~mitaka/hondana/hondana980621a.htm