三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

「バベットの晩餐会」

嫁さんお勧めの映画だったが、ビデオもDVDも絶版状態。ツタヤ・ディスカスにも無い。ようやっとレンタルで観れた。
デンマーク映画で舞台は19世紀、ユトランド半島のどっかの海っぺりの僻地の村。徳の高い牧師さんが娘の美人姉妹と教団(貧乏な連中に食事を施して感化する、てな類の)を運営していた。姉は村を訪れた青年将校、妹はパリから来た有名なオペラ歌手に、それぞれ求愛されるが、父と教団のために拒絶する。父が死んで時がたつ。ある嵐の夜、行かず後家となった姉妹の家に、一人の女性がやってくる。これがバベット夫人。共産主義革命の元祖パリ・コミューンで夫と息子を処刑され、身一つで亡命してきたという気の毒な境遇。無給の住み込み家政婦として働き始める。そしてまた時が流れる。バベットが買っていた宝くじで1万フランが当たる。姉妹は彼女がパリに戻るだろうと思うのだが、バベットはその金で姉妹と教団の老人達にフランス料理のフルコースをご馳走したい、と言う。牧師の生誕100年を記念する晩餐会である。出世して今や年老いた将軍となった、かつての青年将校もやってくる。この晩餐会で、バベット心づくしの料理を食べながら、年老いていさかいが多くなった爺婆達の心も和まされ、将軍と姉との失恋の傷も癒されていく、てなお話。
要するに「旨い飯を食えば世界は平和、人類は皆兄弟」とまとめてしまえるヌルいお話なのだが、その「飯」の描写が凄まじいほどに凝っている。それだけのために、観る価値のある映画。
まず、バベットが来る前の姉妹&教団の食事がどのようなものだったか? カレイを開いて海風に当てて固く干し上げたものを、水で戻して煮たもの。古くてカチカチになったパンを、水とビール少々に漬けて柔らかくし、煮たもの。など。どう贔屓目にみても旨そうではない。バベットは、魚は浜に上がりたてのものを漁師から安く買い付け、ベーコンの類も品質を厳しくチェックする。それだけで、同じメニューでも格段に旨くなり、かつ、経費は節約される。
さて、バベットが「晩餐」のために手配した食材が凄い。画面でざっと見ただけだが、まだ生きてる海亀! 生きたウズラが十数羽、牛の頭丸ごと、キャビア、フォアグラ、トリュフ、ブドウイチジクその他のフルーツ、チーズ、年代モノのワイン多数。
いよいよ晩餐会が始まる。海亀のスープ、キャビア、ウズラのパイ詰め、サラダ、ケーキ、チーズと続く。どれも凄まじく旨そう。酒も年代モノのシェリーから始まり、シャンパン、赤ワインと続き、食後の珈琲と共に供するコニャックで締める。飲みてえ!
食ってる爺さん婆さんたちの表情が実に良い。食材の凄まじさ(特に海亀)を目撃した老姉妹が「魔女の饗宴かも」とビビり、爺婆連中に「味は無視して話題にもしないこと」と余計なおせっかいをこき、爺婆連中もそのつもりで始めたはずなのに、あまりの旨さに次第次第にとろけて行く。その様子が克明に描写される。観ているこちらの心まで和んでいく。
観ればフレンチフルコース食いたくなる映画。言うまでもないが、ダイエット中のかたは絶対観ちゃいけません。