三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

岡田英弘「世界史の誕生」(ちくま文庫)

「歴史とはなにか」に感銘を受けての岡田英弘読書2冊目。これまた蒙を啓かれた。サブタイトルに「モンゴルの発展と伝統」とあるように、中央ユーラシアの遊牧民の役割に注目した研究で、チンギス・ハーンが興したモンゴル帝国により、はじめて「世界史」が成立した、というもの。
枝葉末節レベルだが、長年の疑問が一つ氷解した。歴史の教科書を読んでいると「匈奴が興り」とか「突厥が現れ」とか書いてあるが、天から降ってきたわけでもあるまいに、いったいどこからやってきたのだろう、という疑問。

ウイグル人はもともとシベリアの森林の住民で、南下してモンゴル高原の草原に出て来たものであろう。こうした、森林の狩猟民が、草原に出て来て遊牧民になるという過程は、中央ユーラシアでは何度も繰り返されたもので、モンゴル人もそうして遊牧民になった人々であった。

なるほど。日本人も西欧人も狩猟採集→農耕(牧畜)という定住民的プロセスをたどったので、それが当たり前のように思いがちだが、狩猟採集民からすれば、農耕よりも遊牧のほうが新規参入が容易いだろう。
農耕の場合は、耕作に適した土地を長期間独占的に支配しなければならない。孤立した島国ならともかく、大陸で数多くの民族がシノギを削ってるような状況では、先に農地をゲットして人口を増やし、都市(すなわち城市)を建設したグループが圧倒的に優位。新参者は新しく農地を開拓しなければならないし、開拓したところで先住民に攻められ、奪われる可能性もある。
遊牧なら、家族が動物と一緒に草原を歩くところからスタートできる。武器は弓矢。馬があればベター。敵に襲われたとしても、逃げるにも戦うにも、草原は農地より少数者に有利だ。運よく敵を返り討ちにできれば、家畜や女が手に入る。で、それなりに力をつけたグループ同士なら、通婚や協定によって平和共存をはかるようになる。
遊牧という生活形式に大差は無いし、便利な技術はたちまち普及する。言葉も狩猟採集段階の孤立した言語から、遊牧民同士の共通語へと変わっていく。定住した農耕民とは違って、出自がバラバラな連中でも、共通のアイデンティティを持ちやすい。
で、優れたリーダーが登場すれば、多数のグループを一つに統合し、強大な軍事集団へと変身させる。農耕民を襲い、都市を略奪する。比較的短期間で「帝国」が生まれる。一代にして広大な大陸を征服することも、けして夢ではない、と。

世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫)

世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫)