三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

岡田英弘「歴史とはなにか」(文春新書)

久々の大当たり。わずか222ページの新書であるが、「歴史」を手がかりに、政治経済地理言語学文学哲学宗教文明論その他、読者の「文系」的知識全体を、根本から整理し直してくれる。コストパフォーマンス抜群(w
一つ二つ例を挙げれば、アメリカはなぜ「未来志向」なのか? 「アメリカン・ドリーム」が生まれた理由は何か? その答えが明解に示されている。すなわち、アメリカは歴史のない文明だから、と。

アメリカ独立の以前に、土着のアメリカ王とかいうものがあって、それがアメリカをたばねていたわけでもない。なんのまとまりもなかったところにつくられた国だ。そもそものはじまりのところで、歴史と絶縁して出発した、歴史を拒否した国である。
  (中略)
アメリカ文明に歴史という要素がかけている結果、アメリカ人は現在がどうあるかということにしか関心がない。過去はもう済んだことだ。だからアメリカでは、過去を問う歴史の代わりに、現在だけを扱う国際関係論と地域研究が人気がある。

中国はなぜ「反日」なのか? 「中華思想」はいかにして生まれたのか? 答えは、中国の歴史は『正統』を記すものであり、『正統』と矛盾する現実を無視してきたから、と。

「正史」は、中国の現実の姿を描くものではなく、中国の理想の姿を描くものなのだ。理想の姿は、前漢武帝の時代の天下の姿である。なんどもくりかえし言っているが、中国的な歴史観のたてまえでは、天下に変化はあってはならない。実際には変化があっても、それを記録したら、歴史にはならない。

受験世代以降で、歴史になにがしかの興味を持っているひと全てにお奨め。受験世代には、あえて奨めない。受験用の歴史のお勉強がアホくさくなるから。
歴史とはなにか (文春新書)