三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

「日露戦争物語」

江川達也は現在日本のまんが家の中で最も挑戦的なひとではないかと思う。「源氏物語」でも「家畜人ヤプー」でもなんでもまんがにしてしまうのだが、その際に、原作を既成のまんが文法に翻訳するのではなく、原作の文法に合わせて、新しいまんが文法を編み出すという画期的なやりかたをしている。
日露戦争物語」でも、「戦争をできるだけ具体的に分かりやすく描くためのまんが文法」を編み出し、それに従って描いている。それが分からない読者は、既成のまんが文法で読もうとするから「とっつきにくく読みづらくて訳の分からないまんが」と感じるかもしれない。文法さえ分かれば、これ以上おもしろい「戦争まんが」は無いというくらいに楽しめる。
タイトルは「日露戦争」だが、現在はその前の日清戦争黄海海戦を描いているところだ。大雑把に言えば、敵味方それぞれ10隻以上の軍艦を動かしながら、砲撃で敵艦を沈めようという戦闘なのだが、なるほど艦隊戦というのはこういうものか、と分かりやすい。
野球を知らない人間が、野球場で試合を見ても、せいぜい分かるのは「何をやっているのか」どまりで、個々のプレーについて「なぜそうやるのか」は分からないだろう。「ドカベン」でも「キャプテン」でもいい。よく出来た野球まんがなら、個々の選手の意図や心理をていねいに描くから、一つ一つのプレーの意味が分かり、その集積としての試合のおもしろさも分かる。それがメディアとしてのまんがの力であり、魅力である。
日露戦争物語」が狙っているのは、それと同じやりかただ。軍艦1隻1隻とその指揮官を、フィールドに展開した選手一人一人のように描き、刻一刻と進展する戦闘の中で、各艦がどのような心理状態で、どのように判断し、行動したかを、細かくていねいに描いていく。集団スポーツ同様に、戦争も単なる暴力のぶつかりあいではなく、作戦とチームワークの出来不出来が勝敗に直結するものであるということを読者に分からせる。いや、実に勉強になる。