三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

「キングダム・オブ・ヘブン」続きの続き

ネタバレ&酷評注意。
承前。ついにエルサレムの城壁の一角が崩れ、白兵戦となる。士気高い守備側が、かろうじてイスラム軍の侵攻を食い止めたところで、バリアンvsサラディンのトップ交渉となる。キリスト教徒住民の生命保証と安全撤退を条件に、開城を決める。勝利したかのごとく喜ぶ住民。粛々と城外へ出て行く。その中には、戦争中ナイチンゲールのように負傷者を看護していた王女の姿もある。
そして、再びフランスの山村。「おら、やっぱ鍛冶屋だし」とバリアン。その傍らには元王女が。
(おしまい)

んー、それなりのドラマだったと思うが、今ひとつ感情移入できなかった。最大の理由が主人公。状況対応型、というのか、周囲の変化に従って、行動目的がコロコロ変わる。その場その場で臨機応変に対応している、ともいえる。また「初めての実戦」から「エルサレム防衛戦」まで、さほどの苦労も無く、目の前の課題をスマートにこなしていく。こういう小器用なタイプを「応援したい」と思うのは難しい。
バリアンを演じたオーランド・ブルームが、いかにもモデル然とした二枚目なのもマイナス。「トロイ」のヘタレ次男王子役だったらともかく、鍛冶屋⇔王 のジェットコースター人生を演じるには、お肌がつるつるし過ぎ。艱難辛苦がおでこに刻み付けられたような役者を使って欲しかった。クライヴ・オーウェン(「キング・アーサー」)みたいな。
タイトルの「キングダム・オブ・ヘブン」は、「人種とか宗教とか無関係に、みんなが幸せに暮らせる理想郷」てな意味だろう。バリアンにとっては、自分が井戸掘った領地がそうだったろうし、防衛したエルサレムもそうだったかもしれない。だがラストの元王女と暮らす山村がそうだ、というのは納得いかない。違うだろ。単なる田舎。異教徒と共存するどころか、ヨソモノは徹底排除されるド田舎だろ。
また、歴史的事実を考察するに、十字軍侵略以前のエルサレムは、キリスト教徒もムスリムユダヤ人も共存する都市だった。サラディンによりイスラム支配下に戻ったエルサレムも同様。狂信的な十字軍が侵略した時代に、例外的に宗教対立が先鋭化したわけだ。その十字軍の一員だったバリアンが「理想郷」を語ること自体、矛盾している。
戦闘シーンを始め、画面に金はふんだんにかかっていた。さすがリドリー・スコット。「ワイドスクリーンいっぱいの大軍」もCGじゃなくて、生身のエキストラだったようだし、全滅してぶっ倒れてるシーンじゃ、死体数×時給がいくらになるのか気になった(笑) だけど、迫力は「キング・アーサー」や「アレキサンダー」のほうが上だった。戦闘の怖さとか痛さが伝わってこない。単に大勢で集まってわっせわっせやってる「男だらけの大運動会」みたいな感じ。
最後に、三鷹的ベストキャラ。
1.ライ王:ライ病に犯された身体で黄昏のエルサレム王国を支える名君。かつての美貌を偲ばせる銀仮面に萌え〜。
2.サラディン:いわずと知れたイスラム側の立役者。戦争の天才。クールな戦略にシビれるゥ。
3.ゴットフリー卿:屈強な男たちの先頭に立って戦う父ちゃん。部下に慕われ、尊敬される理想の上司。
4.バカ2領主:略奪強姦虐殺大好き。「十字軍」の本質を一目瞭然で観客に理解させた功績を買う。
5.名無し兵:エルサレムでバリアンに声をかけた奴。バカコンビの自滅作戦に義理でつきあい戦死。哀れなり。