三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

「キングダム・オブ・ヘブン」続き

ネタバレ&酷評続行。
承前。さて、当時のエルサレムの状況を簡単に説明する。物語より約1世紀前、十字軍がエルサレムを侵略し、ムスリムユダヤ人を大量虐殺した。キリスト教徒のエルサレム王をトップとし、十字軍騎士たちを封建領主としたエルサレム王国が成立する。その後、虐殺を逃れたムスリムユダヤ人も含めての、多宗教都市として、それなりの安定を保ってきたが、イスラム側の勇将サラディンの登場により、嵐の前の平穏的状況となっている。
現在のエルサレム王は、かつて16歳の美少年王として対イスラム戦争の初陣を飾った名君だが、若くしてライ病に犯され、病で崩れた顔を銀仮面で覆っているという、腐女子萌えキャラ。妹の王女に有力な領主を娶わせ、王国を継承させたいと願っている。
王女の婚約者はしかし、血筋がいいだけの傲慢なバカ領主。もう一人、これはもう体格&面構えから「バカで間抜けなアメリカ白人」みたいなデブのレッドネック野郎で、バカ2領主としておこう。イスラムとの宥和政策をとるライ王の方針で、たとえ十字軍騎士であっても、ムスリムを略奪したり殺したりしたら絞首刑が執行されている。それがバカコンビには我慢できない。「異教徒殺すのが十字軍の仕事だべ」と思っている。「強姦とか略奪とか最高だべ」とバカ2。
バカ2がライ王の命令を破り、ムスリム隊商を襲撃したため、サラディンが怒ってバカ2の領地に大軍を差し向ける。手勢少数を率いて救援に向かうバリアン(元鍛冶屋)。城に入れば安全なのに、逃げ遅れた民百姓を助けるため、イスラム軍に敢然と立ち向かう。多勢に無勢、奮闘むなしく敗れ、バリアンは死を覚悟するが、敵ムスリム騎士は殺さない。なんと彼は、前にバリアンが馬をプレゼントした従者。実は、決闘で倒した騎士のほうが従者で、コイツがモノホンの騎士だった。恩売っといて良かった!
敵将サラディンもバリアンの「騎士道」に一目置く。城内からバリアンの孤軍奮闘を見ていた王女はもちろん「バリアン様命!」。
それはともかく、バカ2はシメなきゃな、と軍を動かすサラディン。と、その前に、エルサレムからの十字軍主力が出現する。率いるは、病み崩れた身体で馬を駆るライ王。サラディンとの戦場のトップ会談で、停戦を実現する。撤退するイスラム軍。ライ王は、土下座するバカ2をぶちのめす。腐女子激萌え!
領地に戻ったバリアンは、夜這ってきた王女に迫られ、この事実上の人妻と寝てしまう。
自分の死期が近いことを悟ったライ王は、バリアンを呼び出す。「妹と結婚して、エルサレム王を継いでくれねえか」。だが、バリアンは逡巡する。「それじゃ、バカ領主への義理が立たねえ。正義じゃないだ」「そこらへんはちょい悪(ワル)でも、全体として正義ならいいじゃねえか」「そうはいかないだ。神さまは許さないだ」
結局、ライ王は死に、王女はバカ領主と結婚。バカが王さまになる。バカ2は死刑確定で投獄されていたが、当然恩赦となる。さっそく「十字軍活動」を再開し、ムスリム隊商を略奪。あろうことか、サラディンの姉ちゃんをも虐殺してしまう。
サラディンは「犯人を引き渡せ。でなければエルサレムを攻める」と最後通牒を出すが、その使者をバカ王は刺殺する。「おらたちには神がついてるだ。サラディン恐るるに足らず。ビビる奴は背教者だべ」 イッキに世論を盛り上げ、エルサレムの十字軍全軍を率いて出撃する。バリアンはバカ王に反対し、エルサレムに残る。
バカコンビ率いる十字軍は、ろくな補給無しで砂漠を彷徨い歩き、日射病でバタバタ倒れる。そこに、満を持したサラディンイスラム軍が襲いかかる。軍が戻ってこないので、バリアンが偵察に行くと、十字軍は文字通り全滅している。バカ2はバカづらのまんま、さらし首になっている。
バリアンはエルサレムに戻り、住民による志願兵を組織し、都市防衛作戦を立てる。領主→総司令官=事実上のエルサレム王 にクラスチェンジ。サラディンの大軍に勝てるとは思ってないが、エルサレムへの侵攻を許せば、罪のない民百姓が虐殺される。戦って持ちこたえ、少しでも有利な停戦条件を勝ち取ればいい、と考えている。
そして攻城戦が始まる。イスラム軍がカタパルトで大量に打ち込む火弾が炸裂し、エルサレム市街は炎に包まれる。アメリカ軍空襲下のバグダッドを想起させる演出。防衛側も奮闘する。油を流して敵兵を焼き、巨大なボウガンで敵の攻城機を破壊する。
だがしかし、バリアンがすんなりエルサレム王になっていれば、サラディンとの政治的交渉もそれなりにうまく行っただろうし、十字軍は全滅せずに済んだ。攻城戦では、敵味方合わせて軽く1万人は死ぬのだが、彼らも死なずに済んだ。バリアンの「いったん拒絶、気が変わって引き受ける、人が死ぬ」三連コンボの結果であるとも言える。
(この項、続く)