- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 12345
- 発売日: 2004/09/07
- メディア: 単行本
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舞台は深夜の都会だが、ちと入り組んでいる。24時間営業のファミレスやコンビニといった、読者の日常に近いステージ、ジャズをわざわざLPでかけているバーやビル地下のジャズ練習スペースといった、都会的でスタイリッシュなステージ、中国人娼婦が客に殴打されるラブホテルといった馳星周的アンダーグラウンドなステージ。この3つのステージが入り混じっているから、そこかしこに入っている、村上春樹お得意の「アメリカのインテリ同士が交わすようなウィットに富んだ会話」が、妙に浮いてみえる。というか、違和感を出すための意図的な演出に見える。
作品全体としても、ホラーでもなし、ハードボイルドでもなし、それらエンターテインメントと純文学の間に揺れ動いているような、なんとも収まりの悪い感じがする。
ちなみに、この「収まりの悪い感じ」は村上作品の特徴ではないかと自分は思っている。SFだか純文学だかよく分からない「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」とか。既成のジャンルの中に分類整理されない、独特の作品を書こうと意図的に収まりを悪くしているのだと思う。
「アメリカンなウィット」だって、それこそオースターやカーヴァーみたいな作品を書いて、その中で使えば実に収まりがよい。当たり前の話。それを、日本を舞台にしながら、日本的な空気を遮断するために使う。あえて収まりを悪くするために意識的に使っているのだろう。