三鷹食堂日記帖

飯食い酒飲み自転車をこぐおやぢの日常。MT車大好き。

古市憲寿「平成くん、さようなら」

 古市自身がセルフプロデュースしているところの、イマドキの薄っぺらな若いのが、同様に薄っぺらな手塚るみ子(みたいなポジションの女性)と、薄っぺらに恋愛する話。その薄っぺらさが作品の持ち味であり、それなりにおもしろく読めた。芥川賞の講評(ほぼ全員が完全否定)を読んで、読む気を無くしていたが、これは買って読んで正解だった。

 東京(港区)に住む、イマドキの若い富裕層がどんな暮らしをしているのか、衣食住のブランドその他の情報がたくさん載っていて、昔懐かし田中康夫の「なんとなく、クリスタル」(1980年)を想起した。あれもペラペラだったが、さらに数段薄っぺらいところが凄い。

 芥川賞が発表された「文藝春秋」のバックナンバーを読み返してみた。やはり選考委員の、ほぼ全員が完全否定だった。山田詠美などアカラサマだが、小説として評価しない以上に、古市を毛嫌いしている。奥泉光が「平成なる人物の描出など、細部には魅力があって、そこは悪くないと思った」、川上弘美が「平成くんが、わたしはけっこう好きでした」「最後の寂しい会話がとてもよかった」と書いているのが、耳糞ほどの肯定的評価か。

 いやしかし、読んで損のない小説である。上記の現在日本文壇?の評価も含めて、今という時代が俯瞰できる。

 

平成くん、さようなら (文春e-book)

平成くん、さようなら (文春e-book)